引越業者が来ない!
遅延の損害賠償は請求できる?
時間通りに引越しができるかどうかは、消費者としては非常に気になるところです。翌日から仕事がある、その日に賃貸物件の引き渡しを予定している、夜遅くなると近隣への騒音が心配など、影響が大きいからです。
しかし、そんな思いとは裏腹に引越し業者の遅刻はよくあります。そんな時、消費者は引越し業者に損害賠償を請求できるのでしょうか?
繁忙期や午後便は遅れやすい
国民生活センターには、引越し業者の遅延について次のような苦情が寄せられています。
- 「その日しか仕事が休めなかったのに、夜に来られて全然片付かなかった」
- 「当日になって運転手が体調不良になり、いつになるか分からないといわれた」
- 「午前8時開始を午後4時に変更してくれといわれた」
- 「午後1時予定が3時になっても到着せず、連絡もない」
- 「遅れているのでこちらから何度も連絡したが、
『折り返す』のみで明確な回答がない」
引越しサービスでは、作業開始時間が遅れることは珍しいことではありません。特に3月から4月にかけての繁忙期や、午後便またはフリー便とよばれるプランの場合に多いです。
遅刻といっても15分や30分くらいならかまいませんが、午後イチに準備していたのに着いたのが夕方になってしまうと、作業が夜中までかかってしまいますよね。このような実態があるため、午後便やフリー便は料金が低めに設定されているのです。
引越し業者が遅刻するのは不可抗力?
業者が約束の時間に遅れる理由はいろいろありますが、最も多いのが「前の引越し作業が長引いた」というものです。
前の引越しが長引く理由
- 申告した量をはるかに超える荷物があった
- ドアや窓から搬出できない家具があり急きょ吊り下げ作業をおこなった
- 慣れないお客が自分で荷造りして業者がやり直す羽目に
- 悪天候で養生や梱包、運び出しに手間取った
これは業者の方もお気の毒というしかないのですが、だからといってこちらが割を食うのもおかしな話です。
また、行楽シーズンと重なることによる交通渋滞、悪天候による作業量アップも原因になることもあります。けっこう道に迷うこともあるみたいですね。最近では人手不足のためスタッフの人数が足りない、急な体調不良で欠員といった事情も見られます。
このように、業者の不可抗力の場合も多々あるのですが、問題は連絡すらしないという業者の存在です。待ちぼうけでイライラしている時に「もう少しお待ちください」「折り返します」「いつになるか分かりません」を繰り返されると腹も立ちます。
引越し業者が遅刻をしたら、引き換えに何か要求することはできないのでしょうか?
遅刻を理由に値引きや弁償は難しい
実は、引越し業者が遅刻したことだけを理由に、損害賠償を請求することはできないんですね。値引きや補償に応じてもらえるのは、直接的な損害があった時だけです。
精神的苦痛や迷惑料は対象外。業界の取り決めである「標準引越運用約款」には、次のようにあります。
(損害賠償の額)
第二十六条 当店は、荷物の滅失又は損傷により直接生じた損害を賠償します。
2 当店は、遅延により生じた損害については、次の各号の規定により賠償します。一 見積書に記載した受取日時に荷物の受取をしなかったとき 受取遅延により直接生じた財産上の損害を運賃等の合計額の範囲内で賠償します。
まず旧居においては「時間通りに荷物を取りに行くこと」が要件となります。遅刻をするのはもちろん良くありませんが、特に金銭的な実害がなければ業者は補償する必要がありません。財産上の損害とはたとえば以下のようなものです。
遅延により直接生じた財産上の損害(受け取りの例)
- 退去が遅れたため賃貸物件の引き渡しができず、1日分余計に賃貸料が発生した
- 公共交通機関での移動を考えていたが、荷物の引き渡しが夜になったため、タクシーを使わなくてはならなくなった
このようなケースでは業者の責任が問われることが考えられます。
次は、新居においてです。
二 見積書に記載した引渡日に荷物の引渡しをしなかったとき 引渡遅延により直接生じた財産上の損害を運賃等の合計額の範囲内で賠償します。
搬入については「約束した日じゅうに荷物を届けること」が要件となります。極端にいえば夜11時59分でも良いことになりますが、それで財産上の損害が出ているなら賠償の対象になる可能性は十分にあります。
では、荷物受け取り時の遅延による財産上の損害とはどのようなものでしょうか。
遅延により直接生じた財産上の損害(引き渡しの例)
- 新居への搬入が真夜中になったため、その日は家族でホテルに泊まり宿泊料が発生した
- 引越し後すぐに旅行の予約をしていたが、引越しの遅れのために出発できず航空券のキャンセル料が発生した
このように、本来必要のなかった交通費や宿泊費が発生した場合は補償の対象になる可能性があります。
ただし洗面用具や衣類など荷物が届かなかったために新たに購入した場合や、夜間での作業になったために近隣に粗品を配ったという場合は微妙です。交渉次第になるでしょう。
賠償額には上限がある
では、業者がその日じゅうに引越し作業を終えることができず、依頼主に財産上の損害が発生した場合、いくらでも請求することができるのでしょうか?たとえば家族5人で豪華ホテルに泊まっても?
先ほどの約款には次のような文章があります。
三 第一号及び第二号が同時に生じたとき 受取遅延及び引渡遅延により直接生じた財産上の損害を運賃等の合計額の範囲内で賠償します。
残念、補償してもらえるのは引越し代金の範囲内でした。引越し代金が5万円なら、5万円が上限です。
すべて補償していたら引越し屋さんがつぶれる
このように、引越し業者の遅刻によって補償を求められるのはごく限られた範囲内です。引越し作業は想定できない作業が発生する可能性がとても高く、業者の努力だけで絶対に遅れないようにするのは至難の業です。
このような実態をふまえ、ルールも見積もりも多少の遅れを前提に作られているのです。