敷金を取り戻すのに使える!
原状回復ガイドラインを紐解いてみた
ちなです。
前回賃貸マンションから引越したとき、8年も住んでいたのに敷金はほとんどを取り戻すことができました。大家さんや不動産屋さんがいい人だったということもありますが、退去時の原状回復について少し予習していたことが大きかったと思います。
敷金20万円のうち、トイレのフタこわしちゃった修繕費9000円だけ引かれてあとは全部戻ってきました。
でも私に特別な資格があったわけではありません。ちょっと知っているっぽいこといっておけば、家主側もあまり強引には言ってこなくなるんだなーと分かりました。そんな「これ知ってるとトラブルを避けられるかも」って情報を集めてみたので、良かったら役立ててください。
借主は物件を「原状回復」しなければならない
賃貸物件でよく問題になるのは、壊れたり傷んだりした箇所を、借りた方と貸した方のどちらが修繕費用を出すかということです。借りた側は退去する際に住居を「原状回復」する義務があります。しかし、原状回復とは、完全に元どおりにすることではありません。それは国土交通省のガイドラインにも明記されています。
借りた時点の状態から、
- 「時間が経ったら自然に変わってきちゃうよねー」(経年変化)
- 「普通に使っていたらこのくらい劣化するよねー」(通常損耗)
という部分を差し引いても直すべき箇所がある場合、借りた側負担で直す必要があります。それが原状回復です。
「経年変化(劣化)」、「通常損耗」という言葉はおさえておくと便利ですよ。立会いの時に何かいわれたら「でもこの範囲は通常損耗の範囲内ですよね?」と返せば相手も「お、一筋縄ではいかない客だな」ってなります。
賃貸人と賃借人の費用分担のイメージ
先ほど述べた経年変化や通常損耗が借りた側の負担にならないのは、そういうのを直すための費用は賃料に含まれているからです。リフォームなどして物件の価値を上げるための改装が貸した側の負担であることは分かります。
よく敷金トラブルになるのは一番下、賃借人の使い方次第で発生した、明らかに通常の使用等による結果とはいえない損傷です。これには住む人の管理の仕方が悪く、損耗が悪化した場合も含まれます。なぜトラブルに発展するのかというと、どこまでが通常使用で、どこからが使い方が悪かったせいなのかという区切りがあいまいだからです。
国土交通省や国民生活センターのガイドラインには、どのような場合に借主に原状回復義務があるか具体的にまとめてあります。
事例で考える「これってどっちの負担?」
具体例を挙げて、どちらの負担になるのかちなが考えてラムチョが教えてくれます。一緒に考えてみてくださいね。
【事例1】
ポスターやカレンダーを貼るために、壁に画鋲やピンで穴を空けた。よく見ると壁紙に穴が開いているのが分かる。
賃貸だから壁に穴を開けられないってよく聞くよね?借りた側が弁償するのでは?
ブー。これは原状回復の対象にはならないんだ。壁にポスターやカレンダーを貼るのは日常的な行為なので、弁償しなくてもいいんだよ。
【事例2】
壁に棚を作るためにネジ穴を空けた。また、壁掛け時計をかけるために5cmのくぎを打ち込んだ。
画鋲がいいならネジもいいと思うのだけど。
下地ボードに届くほどのネジやくぎは通常の損耗ととらえられないことが多いみたい。画鋲とは違うから気を付けるようにしよう。
【事例3】
タバコのヤニ汚れやにおいがクロスや壁紙等、部屋中から確認できる。クリーニング代や貼り替え費用が発生しそうだ。
これは使い方次第な感じがするから、借りた側が払うんじゃないかな?
正解!これは賃借人が払うのが妥当ってガイドラインにもあるみたい。ただし吸っていた部屋だけでいいんだよ。
【事例4】
家具を設置したことによって、床やカーペットに凹みが付いてしまった。日焼けによって家具の形に跡も付いてしまっている。
これはダメなんじゃない?
建物に消せない跡形を付けちゃったんでしょ?
それがね、家具による凹みや日焼けは通常使用の範囲内なんだ。日本では家具をたくさん持っていて引越しの際じぶんの家具を設置するのが一般的だから、設置跡や日焼けは避けられないって考え方みたい。
【事例5】
退去の際、家全体をクリーニングするからと全額請求された。台所やトイレの消毒も含まれる。日常の清掃はずっとやってきており、特別な汚れなどは見られない。
クリーニング代を請求される話はよく聞くね。最後にきれいにするのは借りた側の責任なのかなとは思うけど…
次の入居者を確保するための清掃はグレードアップの要素があると考えられるんだ。だから借りた側が払わなくてもいいことが多いよ。
【事例6】
借りている人が誤って壁面クロスを破いてしまった。損傷したのは一部分だが、そこだけを補修するとつぎはぎになって見た目が悪くなるので、部屋全体の壁面クロスを貼り替えた。その際、全額を賃借人が請求された。
うーん、確かに壁紙を一部分だけなおすのって難しいよね。でも部屋全体の貼り替え代を請求されるのってひどくない?
そう。だから毀損部分がある一面分を借りた側の負担にして、それ以外はグレードアップ的な位置づけにするのが妥当みたいだね。
費用分担の具体例リスト
原状回復の条件について、次の項目は借りる側の負担になります。
- 借りている側がわざとまたはうっかり壊した場合
- 注意していれば避けられた損耗をしっかり管理していなかった場合
- 通常想定されていない使い方をして壊してしまった場合
次の項目に当てはまるものは貸す側の負担になります。
- 時間が経てば自然と変化するもの
- 通常の生活において想定される使い方による損耗
- グレードアップなど次の入居者のための改修
見やすいように表にしてみました。
家主負担 | 借主負担 |
床(畳・フローリング・カーペットなど) | |
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壁、天井 | |
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建具・ふすま・柱など | |
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設備、その他 | |
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※賃貸契約書に自然損耗の原状回復についても借主が負担する特約がない場合
家主さんや不動産会社さんと立会いにする時、上記とは異なることをいわれた場合、その是非と理由を確認するようにしましょう。
なお、あまり知られていませんが、退去時に見つかった傷や汚れが、借主がつけたものかどうかを立証する責任は貸主にあります。入居時に写真を撮っておらず証拠がない場合でも、借主が立証すべき性質のものではありません。
経過年数による負担割合の変化
ところで、新品を壊すのと古いものを壊すのとでは、弁償代は変わってくると思いませんか?賃貸物件でもその考え方は適用されます。
原状回復の対象になっているものでも、経過年数によって負担割合を減少させることが適当とされています。どのくらいの期間が経てば弁償する価値がなくなるかは、対象物によって異なります。
- 耐用年数5年
- 流し台 - 耐用年数6年
- エアコン、畳床・カーペット・壁クロスなど - 耐用年数8年
- 書棚、タンス等の家具 - 耐用年数15年
- 便器、洗面台等の給排水、衛生設備、金属製の器具 - 建物の耐用年数が適用されるもの
- ユニットバス、浴槽など
たとえば壁クロスの場合、耐用年数は6年です。クロス交換から3年目に借主が誤って破いてしまった場合、残存価値は50%ということになります。6年経っていれば残存価値は1円とほぼ残っていません。
耐用年数を超えていれば必ず弁償しなくても良いというわけではないので注意してください。耐用年数を超えても引き続き賃貸住宅の設備として使用可能であったのにもかかわらず、借主の故意または不注意により使えなくなったのであれば、借主に負担を求められることもあるようです。
敷金が返ってこないことに不満がある場合は
いろいろ調べていると、敷金がいくら返ってくるか、原状回復の費用負担はどのようにするかは、結局話し合いで決められることが多いのだなあと感じました。
くっきりと「これは100%借主負担」「これは100%家主負担」と区別しやすいものはいいですが、「使い方や経過年数によって30%借主負担」といった場合もあるので、プロ相手の話し合いはけっこう大変そうです。
敷金トラブルになった時に早く解決する方法として、「少額訴訟手続き制度」と「裁判外紛争処理制度」があります。裁判にまで持ち込んでお金と時間をかけなくても迅速に解決するための手段で、実際に良く活用されているようです。
少額訴訟手続きは60万円以下の金銭の支払いに関する民事訴訟で、原則として1回の審理で解決でき、裁判所のお墨付きももらえる。
裁判外紛争処理制度は第三者が調停または仲裁に入り建設的な話し合いを促すものです。取扱件数は少額訴訟ほどではありませんが、弁護士や司法書士、行政書士などが仲裁に入る効果は高そうです。
敷金や原状回復に関するキホンを押さえておくと、不当な請求にも対抗することができますし、向こうが問題のない対応をしてくれているのに変に疑ってモヤモヤする必要もなくなりますね。