子育てしやすい市区町村ってなんだ?
テーマ別にランキングを調べてみた
「住みたい街ランキング」ってよくありますよね。でも、家族構成やライフステージによって住みたい環境の条件って変わってくると思いませんか?独身でバリバリ仕事をしている時なら都会のオシャレな街に住みたいでしょうし、子供が3人いるならのびのび遊ばせられる地域が好まれます。
そこで、「子育てしやすい」という条件に絞った「住みたい街ランキング」を探してみました。
すると困ったことが起きました。調査によって結果が全然違うのです。複数のランキングに名前が出てくるような自治体なら本当に子育てしやすいんだなと思いましたが、共通してランキング入りする自治体は見当たりません。
どうしてそんなことが起こるのか、調べてみました。切り口の違ういろんなランキングを比べるのもおもしろいですよ!
目次
「住みたい街ランキング」結果が調査によって全然違う理由
各ランキングを見る前に、どうして調査ごとに結果が全然違うのは、理由を探ってみました。
「子育てしやすい」の指標が違う
何をもって「子育てしやすい」とするかは、たくさんの切り口がありますよね。
たとえば、
- 人口に占める子供の割合
- 子供の人口伸び率
が高い自治体は子育てしやすいと考えられます。
他にも、
- 保育施設の数
- 待機児童の状況
- 独自の子育て関連手当
などの政策面も気になるところです。
- 子育て環境でいえば
- 小児科医院・産婦人科の多さ
- 公園や児童館が充実しているか
- 校区の学校の評判
なども関係してきます。この切り口が変わったり、配点の重さが違ったりすると、ランキング結果が大きく変わってくるのです。
子育てのしやすさに影響しそうな点って、ものすごくたくさんあるもんね。
誰に対して調査したのかが違う
調査する対象が数字で表せるようなものならいいですが、アンケート形式で「子育てしやすい街はどこですか?」と聞けば、まだ子育てしたことがない人、これから子育てをする人、現在子育てをしている人、現在妻が子育てをしていて自分は仕事で忙しいビジネスマンでは、異なる答えが返ってくると予想できます。
また、あこがれとしてどこの街に住みたいかと聞くのと、実際に住んでみて良かったと思うかと聞くのとでもニュアンスが変わってきます。それは「住み心地いい街」と「住みたい」とは違う結果が出たという賃貸住宅大手の調査結果でも明らかです。
誰に聞いたのかが違うことも調査結果に大きく影響してきます。
理想と現実はいつもかけ離れているもの…。
数字の裏までは反映されない
数字で測れるようなデータなら間違いがないと考えがちですが、その数字になった理由まではランキングからははかることができません。
たとえば待機児童。待機児童数は保育園入園を希望し条件を満たしているにもかかわらず入れない子の数を表しますが、待機児童が多い原因には自治体の保育施設の整備不足だけでなく、子育て支援が充実しているからこそ人気が集中し子供が多いという自治体もあります。
データは単に数字だけではなくその理由まで見る必要があるのですが、ランキングにはそこまでは反映されません。
待機児童数が少なければいいってものじゃないのね。
そこで、何をもって子育てしやすいと判断したのかも踏まえていくつか「子育てしやすい自治体ランキング」をご紹介していきます。
「住民の評判」と「子供の数」による子育てしやすい街ランキング
まずは日経BP総研が運営するウェブサイト「新・公民連携最前線」がまとめた子育てしやすい自治体ランキングです。
順位 | 自治体名(都道府県) |
1位 | 印西市(千葉県) |
2位 | 長久手市(愛知県) |
3位 | つくば市(茨城県) |
4位 | 箕面市(大阪府) |
5位 | 流山市(千葉県) |
6位 | 港区(東京都) |
7位 | 大野城市(福岡県) |
8位 | 守谷市(茨城県) |
9位 | 千代田区(東京都) |
10位 | 中央区(東京都) |
順位 | 自治体名(都道府県) |
11位 | 久留米市(福岡県) |
12位 | 春日市(福岡県) |
13位 | 福岡市(福岡県) |
14位 | 吹田市(大阪府) |
15位 | 野々市市(石川県) |
16位 | 府中市(東京都) |
17位 | 明石市(兵庫県) |
18位 | 守山市(滋賀県) |
19位 | 文京区(東京都) |
20位 | 藤沢市(神奈川県) |
引用・日経BP『「評判」と「実績」で見る子育てしやすい自治体ランキング2019』
このランキングの特徴は、実際に住んでいる人から子育てに関する評判をアンケートした結果と、人口に占める0-14歳の年少者の割合や伸び率といった定量的な実績を合わせて集計したところです。
実際に住んでいる人から評価をしてもらっていることがポイントです。あこがれとしての子育てに向いた街なのか、実感として子育てに向いていると思える街なのかではずいぶん違います。住民の評判の評価項目は19個にもおよび、総合1位の印西市(千葉県)は7つの項目で1位を獲得しています。評価項目の中身はこちら。
8つの分野 | 評価項目 |
安心・安全 | 自然災害が少ない |
歩道など交通安全に配慮した道路が整備されている | |
防犯対策(交番/街灯/防犯カメラ/住民による見守りなど)が整っている | |
快適な暮らし | 自然環境が豊か |
公園が多い | |
生活の利便性 | 職住接近が可能である |
日常生活に必要な買い物がしやすい | |
生活インフラ | 図書館や公民館など文化施設が充実している |
医療・介護 | 病院や診療所が多い |
小児科/産婦人科が多い | |
夜間・緊急医療体制が整っている | |
生活インフラ | 図書館や公民館など文化施設が充実している |
子育て | 保育所、幼稚園、認定こども園などが充実している |
教育機関が充実している | |
子ども向けの体育・文化活動が盛ん | |
自治体による出産・育児・子育て支援が充実している | |
子どもを遊ばせる場所が多い | |
自治体の運営 | 行政からの情報発信が充実している |
地域で仕事を見つけやすい | |
街の活力 | 子供や若者が多い |
子供の数が多い街は子育てしやすいのではという理屈で、「年少人口比」と「年少人口の伸び」を評価軸にしたのは面白いですね。たしかに、環境が良ければ子供は増えると考えると説得力があります。
総合2位の長久手市(愛知県)は「年少人口比率」が1位でした。「年少人口の伸び」1位は総合10位の中央区(東京都)です。子供の数が増えているのは東京都とその周辺で、子育て世帯の都市部への流入が進んでいるのが分かります。
子育ては田舎が人気なのかと思ったら、住民の評判が良い所にはけっこう都市部に多いんだね。
「自治体の子育て政策の充実度」による子育てしやすい街ランキング
次は日経DUALと日本経済新聞が自治体を対象に調査した、共働き世帯から見た子育てしやすい街ランキングです。この調査は自治体の子育て政策に焦点を当てたのが特徴で、特に子育て家庭にとって恩恵のある施設(インフラ)と補助(お金・サービス)の充実度を見比べています。
順位 | 自治体名(都道府県) |
1位 | 葛飾区(東京都) |
2位 | 松戸市(千葉県) |
3位 | 新宿区(東京都) |
3位 | 杉並区(東京都) |
5位 | 福生市(東京都) |
6位 | 板橋区(東京都) |
6位 | 堺市(大阪府) |
8位 | 宇都宮市(栃木県) |
9位 | 厚木市(神奈川県) |
9位 | 北九州市(福岡県) |
順位 | 自治体名(都道府県) |
11位 | 豊島区(東京都) |
12位 | 明石市(兵庫県) |
12位 | 足立区(東京都) |
12位 | 練馬区(東京都) |
15位 | 神戸市(兵庫県) |
15位 | 品川区(東京都) |
15位 | 世田谷区(東京都) |
18位 | 大分市(大分県) |
19位 | 渋谷区(東京都) |
20位 | 中央区(東京都) |
引用・日経DUAL『共働き子育てしやすい街2019 総合編ベスト50』
総合ランキングで1位は葛飾区(東京都)です。特に保育園への入りやすさで評価が高く、区長が地道に現場とコミュニケーションを取りながら取り組んできた結果です。
2位の松戸市(千葉県)は0歳児への支援が手厚く、保育園無償化の対象にならない0~2歳児には独自の補助を出しています。また、保育士確保の施策として、保育士に直接支給する手当があるのは珍しいですね。
評価基準となっているのは以下の14のポイントで、それに基づいた38の項目についてきめ細かく調査されています。さすが日経って感じです。
- 認可保育園に入りたい人が入れているか
- 認可保育園の保育利用枠の今後の増設状況
- 認可外保育施設などの受け皿がどのくらい用意されているか、利用者への助成はあるか
- 病児保育施設の充実度
- 待機児童ゼロの達成状況
- 幼児教育・保育無償化以上に保育料値下げなどをしているか
- 未就学児がいる世帯へのサービス・現物支給があるか
- 学童保育が充実しているか
- 保育士確保へ自治体独自の取り組みがあるか
- 保育の質担保への取り組みがあるか
- 産後ケアへの取り組みがあるか
- 不妊治療助成を実施しているか
- 児童虐待に対応する支援拠点の整備
- 未就学児の人数
このランキングは自治体担当者に調査依頼をする形で集めた情報を基に作られたもので、住民にインタビューして満足度を調査したものではありません。仕組みが整っていることと実際の育てやすさはイコールではないかも知れませんが、どのくらい子育て家庭の方を向いて行政をしているか参考になるはずです。
子育て支援の仕組みはあっても使いづらくて誰も利用してないってこともあるしねー。
子育てにカネをかけている自治体ランキング
3つ目は2年ほど前のランキングですが視点がおもしろかったので紹介します。東洋経済オンラインがまとめた「人口1人当たり『子育て』関連の公共事業・落札金額が多い自治体」です。
順位 | 自治体名(都道府県) | 1人当たり金額 |
1 | 千代田区(東京都) | 49,731円 |
2 | 北杜市(山梨県) | 28,597円 |
3 | 港区(東京都) | 12,090円 |
4 | 東近江市(滋賀県) | 6,940円 |
5 | 都城市(宮崎県) | 6,877円 |
6 | 北見市(北海道) | 5,466円 |
7 | 射水市(富山県) | 3,475円 |
8 | ひたちなか市(茨城県) | 3,326円 |
9 | 安房群(千葉県) | 2,909円 |
10 | 印旛群(千葉県) | 2,890円 |
順位 | 自治体名(都道府県) | 1人当たり金額 |
11 | 八女市(福岡県) | 2,711円 |
12 | 下伊那郡(長野県) | 2,697円 |
13 | 寝屋川市(大阪府) | 2,480円 |
14 | 日南市(宮崎県) | 2,397円 |
15 | 唐津市(佐賀県) | 2,256円 |
16 | 渋川市(群馬県) | 2,067円 |
17 | 甲賀市(滋賀県) | 2,012円 |
18 | 比企群(埼玉県) | 1,854円 |
19 | 牧之原市(静岡県) | 1,838円 |
20 | 揖斐群(岐阜県) | 1,646円 |
引用・東洋経済オンライン『子育てにカネをかけている自治体トップ200』
これは公共事業の落札金額に注目したランキングで、案件名に「子育て」を含む入札情報を抽出し、人口で割った金額を多い順に並べたものです。自治体の子育て支援政策のうち、公共事業に限っているため、各種手当や助成制度などは含みません。主に箱もの・ハード面ということになりますね。
箱ものと言うとイメージが悪いですが、例えば保育施設や学童クラブを新設・拡充すると業者に発注することも考えられます。千代田区のホームページには、同ランキングが出た年には小学校・幼稚園の整備、私立保育所の整備、学校放課後事業、児童館の整備などの取り組みが掲載されているので、本当に子育て支援に使われていると仮定していいでしょう。
保育施設や子供の遊び場に公共事業が使われるのは悪くないよね。
「子育てしやすい」自治体を見分けるポイント
3つの「子育てしやすい」自治体ランキングを見てきました。何をもって子育てしやすいと判断するかはものすごくたくさんの切り口があることが分かりましたね。今回取り上げたランキングの中だけでも次のような切り口があります。
- 住民の評判・満足度
- 年少人口の割合、伸び率
- 認可保育園への入りやすさ
- 子育て家庭への手当や助成制度
- 子育て関連施設の公共投資額
子育て世帯にうれしい制度とは
子供を育てる前は、何があるとうれしいかは想像つかないかも知れません。私も、「こういうのがあると助かるんだな」と分かった頃には子育てひと段落していました(笑)。
官公庁・公的機関の統計データを提供している「生活ガイド.com」がインターネット上で行ったアンケート調査「子育て世帯にうれしい制度ランキング」では、次のような結果が得られていました。
- 屋内大型遊具がある施設
- 病児・病後児保育の送迎サービス補助
- 一時預かりや家事サポートなどが無料で利用できるクーポンがもらえる制度
- 学習塾などの授業料助成
- 幼児期からの英語教育
室内大型遊具は子供の遊び場に悩んでいた頃は本当に近所に欲しかったですねー!2位は保育園からの急な呼び出しにタクシー等で親の代わりに迎えに行ってくれる補助制度です。これもあったら助かったなー!3位のクーポンも、一時保育で使いたかった。。
学年が上がると学校制度も気になるところ
「育児」というとどうしても未就学児を想像してしまいますが、小学校から高校卒業までも子育て期間に入ります。小中高は地域の学校の教育レベルや学校制度などが気になりますよね。最近では公立高校の選択制を採用しているところの人気があるようです。
通常、義務教育の間は住んでいる住所によって進学すべき小学校・中学校が決められています。しかし公立学校の質が学校によってずいぶん違うため、行きたい学校を選べるようにしたのが学校選択制です。
子育てに向いている自治体を考える場合、学校選択制を採用しているかどうかも指標の1つになるかもしれません。
結局は住んでみないと分からない
子育てしやすい自治体ランキングは、眺めているのは楽しいものですし、その結果になった根拠は自治体選びにとても参考になります。しかしそのために引越しまで考えるかと言われるとうーんってなります。
どれだけ今住んでいる人が良いと言っても、どれだけ行政の子育て政策が充実していますよと言われても、実際に私が住んで良いと思うかどうかは、住んでみないと分からないのではないでしょうか。
もちろん情報収集は大事ですし、家族で話し合うきっかけになるでしょうが、ランキングは参考程度にして、その元になったデータを参考にするくらいがちょうどいいのかも知れません。