引きこもりは無差別殺人者になるの?
法務省の研究から見えた本当のこと
ちなです。
川崎市登戸で小学生をねらった無差別殺人が起こり、犯人は引きこもりと報道されました。その直後、元農水次官が引きこもりの息子を殺害し、その理由が「川崎市のような事件を起こすのではと危惧したから」と証言しました。
これらの事件から、「引きこもり」=「殺人予備軍」と決めつけるような風潮が起こり、支援団体が差別を助長しないよう声明を発表しています。
私としては、「うんうん、決めつけは良くないよね」と思う一方で、「やっぱりこういう人が・・・」という思いもあります。私の中にも偏見があるのでしょうか。
そんなことを考えていると、法務省の施設等機関である法務総合研究所が無差別殺傷事犯について調べた研究結果を見つけました。過去のデータから、どんな人が無差別殺人を起こしたのかが分かる資料です。
そこから、無差別的な殺人をする人たちの特徴が読み取れます。
目次
無差別殺人を起こすのは「若い男性」
この法務省の調査は戦後の深刻な無差別殺人を犯した52人を対象に行われています。自暴自棄的な無差別殺人を範囲としたもので、恨みや介護疲れなどの一般殺人とは別です。計画的な連続殺人などとも異なります。
その調査によると、犯人の性別や犯行時の年齢は以下のようになります。
無差別殺人に走るのは男、しかも20代から30代の若い男性です。犯人はほぼ男といっていいでしょう。秋葉原通り魔事件の犯人は当時25歳でした。附属池田小事件の犯人は38歳だったと記憶しています。
データにぴったり当てはまりますね。今回の登戸の犯人は51歳でしたから、ややレアケースということでしょうか。
特徴的なのはその年齢層の低さ。無差別ではないいわゆる一般的な殺人では高齢者比率がすごい勢いで増加しているのですが、無差別殺人では逆の形をしています。10代も少なくない一方で、65歳以上については発生していません。これは注目すべき実態ですね。
たしかに年とってからの大量殺人はしんどいよね。
海外でのテロも犯人は若い男が多い気がする
犯人の8割は「無職」
次は、犯行時の就業状況についての調査です。
働いた経験はあるが長続きしない、犯行1年前は半数が無職、犯行時に仕事を持っていてもほとんどが非正規、52人いてまともに働いていたのは4人だけ、という結果です。報道の時にむやみに「無職」を強調するのはおかしいとの声も多いですが、無差別殺人犯リアルに無職多い。
収入面も厳しく、犯行時のひと月の収入はゼロが過半数で、あっても10万円以下、20万円を超えるものはごく少数しかいなかったことが分かっています。さぞかしお金に困っていただろうと思いきや、意外なことに借金をしている人も少ないのです。つまり、経済活動自体していない状況だったのでしょう。
じゃあどうやって暮らすんだというと、親や親族からの扶養や援助を受けていたのが15人、次いで生活保護が9人となっています。
「中卒」が63.5%、「大卒」が3.8%
教育課程別に調べた結果はこちらです。犯行時の最終学歴がいずれに該当するかを示しています。
- 中学校卒業 38.5%
- 高校中退 25.0%
- 高校卒業 19.2%
- 大学中退 9.6%
- 大学卒業 3.8%
- その他 3.8%
※義務教育未修了及び高等学校在学
なんと、高校中退を含めた中卒者が6割を超えるという衝撃的な結果です。これは勉強ができない低学歴が事件を起こす、ということではありません。問題は、学校という半強制的に社会活動をおこなわなければならない集団にすら属していなかったという点です。
社会的集団になじめなかったことを裏付けるデータとして、無差別殺人犯には不良集団や暴走族、ハングレ、暴力団といったグループにも属していた経験が非常に少ないといったものがあります。
社会的だろうが反社会的だろうが、社会的集団に属せないタイプであることが浮かび上がります。
学歴が低いから犯罪に走るってことではないのね!
元暴走族ヘッドが無差別殺人っていうのも聞かないよね。どこかに属しているってことが大事なのか。
嫁も、彼女も、友人もいない
ここまで来ると想像できると思いますが、彼らには一緒にいて充足感を得られるような異性や友人もほとんどいなかったようです。犯行時において、同居する配偶者がいた者はゼロ、交際相手がいた者は1人、親密な友人がいた者は3人しかいません。
結婚経験や交際経験がある人もいるんだけど、犯行当時は離婚してたり別れてたりすることが多いんだって…
ほとんどが友人なし、あっても希薄、もしくは不明・・・!
ここで分かることは、リア充は無差別殺人をしないということ。一般殺人では「え、あんな立派な人が?」「え、あんなに幸せそうな人が?」という犯人が出てきますが、無差別殺人限るとそのような属性の人は見当たりません。
誰か1人でも支えになる人がいればと考えてしまいますが、それを遠ざけたのは本人なのかもしれないので、何ともいえません。
引きこもりは無差別殺人を起こすのか
圧倒的な孤独と不安定な境遇が、彼らを取り巻いているのが分かります。引きこもりも、共通するものがあります。引きこもりによる事件が相次いだことから、引きこもり=犯罪予備軍といったイメージが先行しましたが、これは偏見なのでしょうか、それとも事実なのでしょうか。
実は、無差別殺人犯のうち、犯行前に引きこもりの問題行動が見られた者は23%ほどしかいません。無関係とはいえないものの、引きこもれば殺人を犯すと断定するには無理があります。
問題行動 | 該当者数 | 全体に占める比率 |
自殺企図(犯行前) | 23 | 44.2% |
引きこもり | 12 | 23.1% |
対人粗暴行為 | 8 | 15.4% |
覚せい剤 | 8 | 15.4% |
性的問題 | 7 | 13.5% |
対物粗暴行為 | 5 | 9.6% |
シンナー | 5 | 9.6% |
問題飲酒 | 5 | 9.6% |
浪費 | 5 | 9.6% |
ギャンブル | 4 | 7.7% |
自傷行為 | 3 | 5.8% |
動物虐待 | 2 | 3.8% |
その他薬物 | 1 | 1.9% |
その他 | 3 | 5.8% |
特になし | 9 | 17.3% |
それよりも気になるのが「自殺企図(きと)」です。半数近くが犯行前に何らかの自殺を試みています。
無差別殺人者は犯行の後に逃げることを考えていません。あえて捕まる、その場で自殺するといったケースが多くなっています。証言で「死刑になりたかった」という者もいますね。要するに、無差別殺人も自殺の一種だったのでしょう。
この記事を最初に読んだ時は少し反発を覚えました。犯罪者に手を差し伸べろというのかと。でも、今ならその行為が無差別殺人を誘発することは理解できます。
社会的不適応で、何もかもイヤになった、死にたいと考えている人に、社会の方から「勝手に死ねよ」というメッセージを発してしまうと、「巻き添えにしてやる」という気持ちにもなるでしょう。もちろん、巻き添えにされた方はたまったものではありませんが。
無差別殺人者は被害者を「選んでいる」
もうひとつ気になったのが、どんな人が被害者になっているかです。無差別殺人という名称から、犯人は手当たり次第に人を殺しているようなイメージがありますが、実際にはちゃんと「選別」しています。無差別ではありません。
犯人は自分より弱者、特に子供をねらう傾向があります。登戸の事件では、スクールバスを待っている小学生が狙われました。附属池田小事件で8人の児童を刺した犯人も、エリートの子供を狙ったと証言していますから、子供が被害者になるニュースが多いのは偶然ではありません。
また、幸福そうに見える者も選ばれやすいです。恨みのある相手と共通点のある人を代わりに選んだという動機も見られます。選定理由なしも相当数ありますが、本当の意味で被害者を選んでいない事件では、被害者数が多くなる傾向があります。
意識的なのか無意識なのか、絶対に反撃されなさそうな相手を選んでるのね。
本当の意味の「無差別」って意外と少ないなぁ。別の呼び方のほうがいいのかも。
無差別殺人犯の特徴まとめ
ここまでの分析をまとめると、無差別殺人に走る人には以下のような特徴が見えてきます。
- 20~40代男性
- 無職または低収入
- 低学歴
- 配偶者や交際相手がいない
- 親しい友人がいない
- 社会的活動が著しく少ない
- 自殺願望がある
これに当てはまる人すべてが無差別殺人を起こすわけではありません。実際に行動に移すには強い動機が必要です。無差別殺人は、社会や特定の人物への強い不満がある人物が起こします。犯人の動機を見てみましょう。
↓
「それはきっと社会が悪い、アイツが悪いに違いない」
↓
「社会を構成する誰か、もしくはアイツに似た誰かを殺して気を晴らそう」
↓
「どうせつまらん人生だ、やることやったら死のう」
もともと一人が好きで引きこもってるとか、ちゃんとしなきゃと思ってるけど自信がなくて困ってるとか、そもそも死にたいなんて思っていない人なら、それは生きづらさを抱えている人達なのできちんとしたサポートが必要です。いきなり無差別殺人の心配をするのは乱暴です。
引きこもりは、無差別殺人犯を生む一部の要素を満たしているにすぎません。したがって、彼らを犯罪予備軍のような目でみるのは大きな間違いです。それよりも、どうしたらこのような悲劇がおこらずに済むのか考えたいところです。
でもどうやって?20~40代の非リア男性を見張ればいいのでしょうか。それってヒドイ。本当に悩ましい問題です。